まさおか式座談会 2015/09/14


「まさおか式」は日本では珍しい、振付家とドラマトゥルクのカンパニーです。所属ダンサーは現在いません。なぜ、振付家とドラマトゥルクでダンス・カンパニーをやっているのか。
「まさおか式」結成の経緯から、現在の「まさおか式」での共同作業、そして、新作『踊りが生まれる日』について、主宰・政岡と唯一のメンバー・佐々木が、あーだ、こーだ、意見を言い合ってみました。
 
まさおか式(上:政岡由衣子、下:佐々木すーじん)

◆まさおか式座談会・開幕
佐々木(以下S):えーと、まさおか式座談会ということで、まぁ司会もインタビュアーもいないんですけど()、二人で話していきましょうか。ドラマトゥルクの佐々木すーじんです。
政岡(以下M):やろうやろう!主宰で振付家の政岡由衣子です。


◆まさおか式結成の経緯
:なんでカンパニーを立ち上げたんでしたっけ?
M:そもそも、201312月に政岡由衣子名義の2回目の単独公演(『ダンス宣言』@RAFT)を終えて、高円寺パルのサンマルクカフェで「ふりかえり」していて「お前は何がしたいんだ!?」みたいな話をされて…
S:え、俺が言ったんだっけ?
M:あれ?違ったっけ?
S:いや、その、カンパニーをやろうと思った結成の意図を聞きたかったんだけど…
M:ああ、うーんと…、その頃色んなオーディションを受けていたんだけどご縁が無くて、でもダンスには関わり続けたかったから、ああ、これは自分の創作活動を自分でやっていけ、ってことなんだなって思ったんだよ。
 
『ダンス宣言』 photo by bozzo

S:なんでカンパニーにしたの?
M:私は、誰かと継続的に創作することや、学生時代に友達とユニットを組む、みたいなことをしてこなくて、だからカンパニーを主宰するっていうのはアーティストとしての決意表明みたいに思っていた。
継続することや、カンパニーとして何をどうやっていくか、というのを背負わなくてはならないし、「まさおか式」という名前をつけることで自分の中で創作活動の位置みたいのが変わった。
カンパニーの色みたいなことにはこだわりがないんだけど。まだまだ色んなことをやってみたいと思うし。
S:「まさおか式」っていう名前も、ゆいちゃん(政岡)が思いついて…
M:そう、私がつけた!
S:俺はすごいいい!って言ったんだけど、ゆいちゃんが「くもん式みたいで嫌だ」とか言って…
M:そうだっけか(笑)
S:カンパニーでは、こういうことをやってみたい!ってのはなかったの?
M:永くダンサーと付き合いたい、継続的に出て欲しいみたいなのはあった。カンパニーでダンサーを抱えて、継続的にクリエーションに関わってもらうことで、色んなことを一緒に経験して、共通言語が増えていくじゃない?まだ実現出来てないけどね。

(通りすがりのおばちゃん):ポッキーあげようか?
SM:ありがとうございます()
S:また中学生に見えたんだね。
M:パチンコの景品だって(笑)
ちゃっきー(佐々木)は、やっぱり私の作品に2年以上付き合ってきて、傾向とか、わかるようになってきたんじゃないの?
S:うーん、自分の経験値とかダンスの見方とかも変わってきているから、単純に比較できないけどね。でも、いくつかの作品を経て、自分の関わり方みたいのはわかってきたような気がする。
M:ちゃっきーはさ、これあんまり掲載したくないんだけど(笑)、私と恋愛関係だからまさおか式をやってるわけじゃない、って言っていたけど、なんで参加しているの?
S:うーん…、勉強の機会だよね。出演しても勉強になるんだけど、振付家のダンス観を受け入れなきゃいけないから、思考停止しなきゃいけない部分もある。自分が作家であるより一歩引いてるから、ダンスについて考えられ続けるっていうのがいいね。


◆ドラマトゥルクについて
SKAFE9で(山田)うんさんと(池田)扶美代さんの『作品創りの一歩をショーイング』に音楽で参加した時、サラ(・ヤンセン)さんがドラマトゥルクをしていて、「ああ、こんなダンスとの関わり方もあるのか」ってすごい衝撃を受けて、可能性を感じたのが大きかった。それが2012年か。
ドラマトゥルクがどういう仕事をしたらいいかっていうのは、手探りではじめたけど、今はいい結果を実らせるには、作家ごとにケース・バイ・ケースで考える方がいいんだなって思ってる。
ゆいちゃんはドラマトゥルクをクリエーションに参加させるのに積極的だったよね。まさおか式結成のきっかけになった作品、『ダンス宣言』で単独ソロだからってことで、はじめて俺がドラマトゥルクをやった。
大学時代にもドラマトゥルクがいるクリエーションを経験していたんだっけ?
M:私の大学では振付専攻の学生と、別の大学のドラマトゥルク専攻の学生が一緒にクリエーションするっていうのがあってダンサーで出演したんだけど。その時はあんまりよくわかってなくて、ドラマトゥルクの人が来ると、作品のテーマに関する記事や本の抜粋をコピーして配ったり話したりしていたんだけど。
これは日本にはないシステムなんだけど…国の予算で運営しているプロダクション・ハウスっていう、小さい劇場やスタジオを持っている施設があって。そこで大きい劇場より小規模な企画や実験的な企画をやっているんだけど。オランダには確か3つあって。
そのロッテルダムのプロダクション・ハウスで、若い振付家15人が小作品を作るっていう企画に振付家として大学卒業してから参加したんだ。その企画にドラマトゥルクがついていて、115で途中経過を見せながら他の振付家とかも含めてのフィードバックをやったんだけど、その時にすごくいい経験ができたんだよね。
「あなたの作品はこういうことを題材にしているなら、こういうリサーチをした方がいい」っていうアドバイスとかがあって、「ああ、ドラマトゥルクってこういう働きをする人なんだ」って思って。結果、それまでの自分の作品にはない密度のものになって。
S:作品は?
MHeliotrope Bouquet(『ウェストサイド・ストーリー』の振付をコンテンポラリー・ダンスとしてリ・クリエーションした作品。2009年発表)。
S:その時は何がよかったの?
M:外側の目を担ってくれたというか。私は創っている最中、「こうだ!こうだ!」ってガーって狭く見ていて、それに対してそのドラマトゥルクの方はすごく広く見ていたんだよね。「こういうことが見えた、こういうことがあった」っていうフィードバックや「なんで6人なの?なんで女性と男性なの?なんでウェストサイド・ストーリーから取材してるの?」っていう質問とかをしてくれて、「じゃあ、こうしてみようかな」っていう風に自分の発想がすごく広がったり、質問に答えるために考えを深めることでスキを無くせるっていうか。
ダンサーの視線や表情、人選、テーマ、全てを振付家に選択させるっていう感じがあって、今はそれはヨーロッパ式なのかな、と思う。それだけじゃないんじゃないかなって日本に帰ってきてから思うけどね。

『Heliotrope Bouquet』 photo by Eleonora Zdebiak

S:まさおか式のドラマトゥルクとの共同作業はどうですか?
M:ちゃっきーは、アイディアを出すよね。だから一緒に作品を創っているって感じが強いかも。私のもう一個の脳ミソっていうか。
あとは、ノート。ちゃっきーに話しておくことで、考えも整理できるし、あとから「ゆいちゃんこう言ってたよね」っていうリマインダーにもなる。
S:そうだね。いまは、その人のやりたいことをどうやったら先鋭化できるかっていうのが俺のドラマトゥルクとしての活動のベースかな。
スキがないっていうのが本当にいい作品なのかな?って思っているんだよね。
作家のやりたいことをどこまで具現化できるか、それが観た人にどこまで刺さるか、っていうことを考えているね。
あとは、ゆいちゃんにもっと成長してもらうまでのプロセスにいる感じはするかも。クリエイティブなアイディアを提供したいと思って関わっている訳ではなくて、ゆいちゃんにやりたいことがドシっとあって、そこに対して作業したいイメージはある。
M:まだまだこれからだ!
S:そうだね。寒いし移動しようか(笑)
(高円寺駅側の公園にて)


◆新作『踊りが生まれる日』について
S:では新作についての意気込みを。
M:「まさおか式の“ダンス”はコレだ!」っていう作品になると思う。私は、有り難いことにBATIKというカンパニーに参加できて、その時に持っている信念とまさおか式での信念は違うんだけど、どっちも嘘じゃないって信じている。まさおか式での信念を、ダンスを、結実させたい。
S:焼酎ムギ、ロック下さい!
M:はやいよ(笑)
S:俺は新作が、ダンスについて考え続ける、いい機会になってる。もともと、ゆいちゃんの作品は、ずっと“ダンス”そのものを扱ってきているんだけど、今回はそれが今までで一番深い。ダンスとは何か?を問うのに、ダンス圏外からモチーフを持ってきて作品を創るってことは、よくあると思うんだけど、自分がダンスだと思う一点を、ごまかしなく指し示せるかどうか?っていうのは、とても挑戦的だよね。
M:自分が出演するデュオ作品を創ることも私は初めてで、そういう挑戦も楽しいね。
あと、私がワーって喋ったのを、ちゃっきーが言語化してくれるっていうことがあるじゃない。まさおか式のプロフの「ダンスがダンスたる由縁をダンス的に立ち上げるのが夢」っていうのも、ちゃっきーがパパッと書いて、「ふーん」って思っていたんだけど、1年半くらいしてから、ポッとはまった時があった。
今回のタイトルも、聞いたときは「ああ、いいかもね」ぐらいだったけど、実際、「今回の作品のテーマは?」って聞かれたら、「踊りを生むことです」って一言に収まるし、コンセプトとして「踊りが生まれるとはどういうことか?」「生まれる瞬間って何か?」っていうことを考えるようになった。ちゃっきーが出した「生まれる」って言葉が考えの根本みたいになって。
私の考えのポイントを、ちゃっきーが言語化して、また私に返ってくるみたいな。
S:ちゃっきー、すげぇヤツだな。いい仕事してんな!
M:ハハ。あ、鼻で笑っちゃった(笑)
S:共演者の(北川)結ちゃんはどう?
M:すごく魅力溢れるダンサーだなと思う。
S:ゆいちゃんより踊りがうまい(笑)
M:ハイ。踊りもさることながら、クリエーションをすることに対する考え、見方が深いと思う。ダンサーの役割はこういうことっていう…
S:意識が高いよね。
M:うん。
新作稽古の様子

S:じゃあ最後に。
M:大きいことを言うなら、私はダンスがすごく好きなんだけど、舞台を観に行って「私が好きなダンスを掲げて、そんなことするな!それはダンスじゃないだろ!」って思うことが多々あって、じゃあ自分がダンスだと断言できることをやれるのか!?というところで戦っています。
S:まさおか式の記念碑的な作品になると思います。
M:そう!?
今回、やっと…
S:フフフ…
M:なに?
S:いや、どうぞ(笑)
M:今回やっと、クリエーションの部分で、自分の予想のつかないことや知らないところに身を投じて行けているなと思っています。
で、何で笑ってたの?
S:笑ったっけ?
M:もう酔っぱらってるんでしょ?
S:うん!
(高円寺某立ち飲み屋にて)

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まさおか式新作公演『踊りが生まれる日』
2015/10/1〜2015/10/3 @小金井アートスポットシャトー2F
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